営業組織にとって商機の創出は永遠の命題です。
この記事では商談創出方法のうち、特にアウトバウンド/プッシュ型の営業手法について解説します。
アウトバウンド/インバウンドとは?
商談や商機の創出方法は大きくアウトバウンド(=プッシュ型/Push型)とインバウンド(=プル型/Pull型)に2分されます。
アウトバウンドはまだ接点を持てていない見込み客に対して自社から接点を持ちに行く能動的な手法、
インバウンドは見込み客からの資料請求や問い合わせを待つ受動的な手法です。
以下にメリット・デメリットを整理します。
手法 | メリット | デメリット |
アウトバウンド/ プッシュ型 /Push型 | ・顧客側からのアクションを待つ必要がないため商談数や受注タイミングをコントロールしやすい ・接点のない企業にもアプローチが可能 ・情報収集に積極的でない層にアプローチできるため、商談化した場合は比較検討されづらいため、成約率が高くなる傾向にある (継続型のビジネスの場合は解約率も低く抑えやすい) ・人件費以外のコストの発生が少ない | ・初回接点の時点では顧客はその商品に対して興味がない状態のため、商談化率が低く、商談数を増やすには営業リソースを投下し、大量のアプローチが必要となる ・担当部署や担当者名が分からない状態でアプローチを行うため、邪険にされることも多く、営業担当者には精神的なキツさがあるため、採用や定着の難易度が高い ・過度な営業活動を行うと企業イメージを棄損するリスクがある |
インバウンド/ プル型/ Pull型 | ・問い合わせや資料請求が行われており、担当部署や担当者名が判明した状態でアプローチが行え、一定の関心を持っている状態のため商談化率が高い | ・問い合わせ/資料請求があった企業以外にアプローチできない ・問い合わせ/資料請求を行う企業は、積極的に情報収集を行う傾向があるため、商談化した場合も比較検討/コンペとなる可能性が高い |
下世話な例えをすると、
アウトバウンドはナンパ
- タイプの相手(潜在顧客)がいたら、場所・時間問わず、費用もかけずにアプローチができる
- しかし相手は出会いを求めているとは限らないため、基本的にはお断りされる
- それを突破するためには話術(トークスクリプト)と印象(ブランドや実績)が重要
インバウンドはマッチングアプリ
- 自分(自社サービス)に少なからず興味を持っている状態からスタートできる
- いいね!を多くもらうには、プロフィールを充実させる(ブランディング・マーケティング)・有料プランに入る(広告費や媒体掲載費を投下する)など、手間やお金をかける必要がある
- 相手は他の人(競合)も見ているので、デート(商談化)や交際(成約)に至るためには、比較検討された上で選ばれなくてはならない
といったイメージです。
本記事では前者のアウトバウンドにフォーカスして、その手法を解説します。
アウトバウンドを行っている企業
アウトバウンドの営業といえば、ゴリゴリの営業会社が行う方法、と思われがちですが、案外様々な会社で採用されています。
例えば特定の業種のみや、スタートアップ企業のみなど、ターゲットが限定されるニッチな商材・商品を扱っている場合、インバウンドでの問い合わせを待っているだけでは営業活動が思うように進まない場合があります。
私が所属していたバックオフィス系の支援ツールのSaaS企業でも採用されており、一定の成果が挙がっていました。
アウトバウンドの営業活動の流れ
大きく以下の流れが存在します。
- ターゲットのセグメントを決める
- ターゲットのリストを収集する
- アプローチする
アプローチした結果として商談化してからはインバウンドの手法とあまり差がありませんので、ここでは商談化するまでにフォーカスします。
1.ターゲットのセグメントを決める
セグメントを決める際には大きく以下2つの観点での検討が必要です。
- 接点がない状態から商談化が現実的に可能であるか?
- どの層を狙うか?
1つ目の「接点がない状態から商談化が現実的に可能であるか?」の観点では主に大企業が除外されます。大企業では既に多くの営業を受けているため、営業行為を受け流すためのマニュアルが整備されています。アウトバウンドの架電では一つの指標となっている受付突破(電話の受付担当者から、実務の所管部署につないでもらえる)が難しいことが障壁となります。規模が大きいほど、この傾向が強くなりますので、大企業を避けるのは無難です。
2つ目の「どの層を狙うか?」については自社の潜在顧客のうち、アウトバウンドで商談化や成約につなげやすい領域を検討します。アウトバウンドは関係性のない状態からいきなり提案を行うため、高額な商材や導入ハードルの高い
2.ターゲットのリストを収集する
アウトバウンドの場合、架電やメール、DMを送付した際の、反応率が悪いため、多くのアプローチが必要となります。
その際都度アプローチ先を探していたら、効率が悪いため、事前にリスト収集を行ったうえでアプローチを行うことが一般的です。
WEB上での収集
現在ではWEB上で特定条件に合致する企業を検索の上、リスト化する方法が最も一般的です。
例えば、「飲食店を探せるサービス」の掲載店舗を獲得したい場合、やみくもに電話をかけるより、食べログやホットペッパーといった、既存の競合サービスに掲載している店舗に営業を行ったほうが、成約につながりやすい傾向にあります。
理由としては以下の点が挙げられます。
- すでに別サービスを利用しており、サービスの利用に対して抵抗感がない
- 集客のためにサービスを利用しており、集客に対して積極的な姿勢である
- 他媒体に有償で掲載しているため、集客のための予算が組まれている
このように、自社サービスのニーズがありそうな企業の母集団を見つけることが重要となります。
見つける方法としていくつかのアイディアを以下に記載します。
ポータルサイト
飲食店や美容室、ホテルなどのBtoCサービスを展開する企業がターゲットとなる場合、ポータルサイトには母集団がすでに掲載されている可能性が高いです。
主要なポータルサイトは以下があります。
ジャンル | ポータルサイト例 |
飲食 | 食べログ ぐるなび ホットペッパーグルメ Retty |
美容室、エステサロン | ホットペッパービューティー 楽天ビューティー |
ホテル | 楽天トラベル 一休.com じゃらん エクスペディア |
レジャー施設 | アソビュー! ウォーカープラス |
注意点としては多くのポータルサイトでは、掲載企業への営業行為が禁止されています。
大々的に営業活動を行った場合にはポータルサイトや掲載企業から指摘を受ける可能性や、信用の失墜にもつながりますので、営業の方法には留意が必要です。
展示会出展企業
展示会は企業同士のビジネスマッチングの場であり、同業の企業が多く出展する場となっています。
例えば化粧品メーカーや自動車部品メーカーなど、特定の業種の企業を多く見つけることが可能です。
「[展示会名]+出展社一覧」などのキーワードで検索すれば、その展示会に出展している企業の一覧閲覧することも可能です。
ポータルサイトと同様ですが、掲載企業への営業行為は禁止されている可能性が高いため、営業を行う際は留意が必要です。
競合の取引実績開示企業
競合他社のサイトに取引実績や導入事例として掲載のある企業は、競合サービスを導入済みであり、自社サービスのニーズがある可能性が高い企業群となります。
事例掲載がされているからと言って、リプレイスの可能性は皆無ではありません。
事例掲載がされている企業には大きく以下のパターンが考えられます。
- (事例掲載をした時点で)製品・サービスに対する愛好度が高かったため、事例掲載を許諾した
- ディスカウントや特典の付与の条件として、事例掲載を許諾した
- 製品・サービスを導入していることを対外的にアピールし、営業や採用活動を優位に進めたい
そのため、競合に勝る点がある場合はリプレイスが可能な可能性もあります。
SNS
FacebookやInstagramやX(旧:Twitter)、noteなどで情報発信を行っている企業は、人的リソースや製作のコストをかけてでも対外に何かをアピールしたい企業となります。
多くの場合、以下2パターンに分類されます。
- 見込顧客に向けて自社の商品/サービスを認知させ、購買につなげたい
- 求職者に向けて自社の存在を認知させ、採用につなげたい
SNSの投稿内容を見れば、見込顧客向けか求職者向けかは一目瞭然かと思います。
例えば中途採用のエージェントであれば、自社が得意とする業界で、求人を目的としたSNS発信を行っている企業に対してアプローチをかけることで、取引につながる可能性があります。
大量のリストを収集する際、”WEBスクレイピング”という、大量のWEBページを機械的に周回する方法を使うと、手作業に比べ大幅に作業時間を削減することが可能となります。
リスト購入
その名の通り、営業先となる企業のリストを購入する方法です。
「営業 リスト 購入」などのキーワードで検索すると多くのサイトが引っ掛かります。
すでに作成されたリストを販売するサービスと、要望に応じてリスト作成を行ってくれるサービスが存在します。
要望に応じて作成してくれるサービスについては企業のセグメント(業種・業態、従業員数、売上規模、従業員規模など)を絞り込めることが一般的で、自社サービスがマッチしそうな企業のみに限定したリストの作成が可能ですが、セグメントを絞るほど、1件あたりの単価が上昇する傾向にあります。
筆写の経験としては、既成のリストの場合5~20円/件、オーダーメイドのリストの場合、10~100円程度と聞いたことがあります。
注意点ですが、リストの販売会社は乱立しており、購入元の企業がコンプライアンスを遵守した収集方法を採用していない可能性があり、電話した先の企業から収集方法についての指摘を受ける可能性があります。
架電時のトークスクリプトの内容には注意する必要があります。
電話帳
電話帳に掲載されている個人や法人に対して電話をする方法です。
多くの連絡先が掲載されているため数としては多いものの、以下の問題点があります。
- すでに多くの電話営業を受けていて、営業と分かった途端に切られる可能性が高い
- 業種や規模など、セグメントが絞られておらず、五十音順となっていて、やみくもに架電をすることとなり、アポイント率が低くなる
- 店舗名(もしくは法人名)と電話番号のみしか含まれず、情報が不足するため、別途WEB検索が必要となる
- 情報の鮮度が悪く、すでに廃業している企業も含まれる
無料とはいえ、電話帳からアポイントを獲得するのは効率が非常に悪いため、お勧めすることはできません。
3.アプローチする
リストが収集出たら、アプローチを開始します。
アプローチにもさまざまな手法がありますので、以下に代表的な手法を
手紙/FAX/メール/問い合わせフォーム
手紙/FAX/メール/問い合わせフォームなど、文章的手段でアプローチをかける方法です。
電話以上に短時間で多くの対象にアプローチが可能ですが、ターゲットの企業も多くの営業を受けているため、反応率は期待できません。
送ったメッセージへのレスポンスを待つだけでは、反応率が悪いため、メールトラッキングツールや、MAツールを組み合わせ、どの企業がリンクをクリックしたかなどが分かる状態を構築し、関心のありそうな先を特定の上、追客を行うことが重要です。
これらの手法の中で、最も反応が良い手法が手紙です。
例えば証券会社では巻物に手紙を書いて、決裁者に送付するなどの手法が採られていました。
それ以外にも、もし現物の商品があるビジネスであれば、サンプルをいきなり送付するなども反応率の高い方法となります。
電話(アウトバウンド架電/アポ電)
関係性のない企業に電話し打ち合わせを設定やその場で商談を行う方法であり、アウトバウンド営業の中では最もポピュラーな手法です。事前に電話でのアポイント設定ができるため、「訪問したけれどなんの成果も得られなかった」という事態は避けることが可能です。
KPIとしては架電数や受付突破率、アポイント率を見ます。
架電数は事前調査の要否にもよりますが、1時間あたり5~10程度、受付突破率やアポイント率はターゲットによって大きく異なるため、実施する中でのチューニングが必要となります。
訪問
企業にノーアポイントで訪問し、アポイントの設定や商談を行う方法です。
電話と異なり、担当者との面会ができた場合は関係性構築がしやすく、次回以降のアポイント獲得にもつながりやすい方法ではありますが、営業担当者の稼働コスト(時間・交通費など)が大きく、アポイント単価が高額となることや、心理的な負担が大きく離職率が高止まりすることが課題となります。
飛び込み営業
アウトバウンドといえば、まず思い浮かべる手法ではないかと思います。
アポイントがない状態で企業に訪問することで接点を持つ方法です。
都市部では受付担当者が多くの飛び込み営業を受けていおり、門前払いされることも多く、商談化や名刺交換ができる可能性が低い手法です。
一方、地方で地域密着型のサービスを展開しているなどの場合、近隣企業とのつながりが重視される傾向にあるため、有効な手法の一つとなります。
声掛け
4~5月ごろにオフィス街を歩いていると新卒間もない方から「研修の一環で名刺交換をお願いしている」といった声掛けをされたことはないでしょうか?
新卒者への同情もあり、名刺は比較的集まりやすいものの、不特定多数に対しての声掛けとなるため、業種や部門も様々な名刺が集まることとなります。
BtoBの事業を展開している企業には不適で、例えば不動産など、BtoCの高額な商材に適した手法となります。
待ち伏せ
この方法については警察沙汰となる可能性もあるため、推奨できる方法ではありませんが、特定企業の役職者との新規取引を開拓したい際、証券会社などで用いられている手法ではあります。
具体的には対象者のオフィスのエントランスや駐車場などで待ち伏せが行われるケースがあると聞いたことがあります。
紹介
新規開拓したい対象と関係性がある、既存顧客や社外の顧問から紹介を受ける方法です。
手間や費用を要しますが、前述の手段で開拓できない対象にアプローチをかけたい際には有効な手段です。
既存顧客の場合、自社に対する愛好度が顧客に「グループ会社を紹介してもらえないか」などの相談をします。
BtoBの商材の場合も「貴社のお取引先やグループ会社を紹介していただけないか?」といった相談をすることによって、紹介が得られる場合があります。
社外の顧問については、取引先として開拓したい大手企業の出身者を顧問として起用し、現役の役職者を紹介してもらう、といった方法が一般的です。
顧問紹介のサービスに「XX銀行の元役員の在籍があるか」などの相談をすると紹介が得られる可能性があります。
終わりに
以上がアウトバウンド型の営業で一般的に行われている手法です。
ターゲットや自社の商材にもよりますが、